エッジAIとは?クラウドAIとの違いや導入メリット、活用事例を解説

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AI技術の進化により、クラウド上で大量データを処理する手法が主流となってきました。一方で近年は「エッジAI」という新たなアプローチが注目を集めています。エッジAIは、現場のデバイス上でAI処理を実行することにより、リアルタイムの判断や通信コストの削減を実現する技術です。自動運転や製造業の品質管理、医療現場のバイタル監視など、即座の対応が求められる分野で活用が広がっています。

本記事では、エッジAIの基本概念からクラウドAIとの違い、導入メリット、具体的な活用事例、成功させるためのポイントを解説します。

目次
  1. エッジAIとは何か
    1. エッジAIの定義と基本概念
  2. エッジAIとクラウドAIの違い
    1. 処理場所・速度の違い
    2. コスト・通信量の違い
  3. エッジAIが注目される理由
    1. IoT時代の通信量問題
    2. 現場での即時判断の需要の増加
    3. 個人情報・セキュリティへの関心の高まり
  4. エッジAIのメリット・デメリット
    1. エッジAIのメリット
    2. エッジAIのデメリット
  5. エッジAIの活用事例
    1. エッジAIの代表的な活用事例
  6. エッジAI導入のポイント
    1. 導入時の課題と対策
    2. エッジとクラウドの役割分担の設計
    3. AIモデル学習に必要な高性能GPUの活用
  7. まとめ
  8. 「高火力」シリーズの導入事例
    1. 株式会社ティアフォー様:「高火力PHY」で自動運転開発における実験を大幅に短縮

エッジAIとは何か

まずはエッジAIの基本的な仕組みと、従来のクラウドAIとの違いを解説します。

エッジAIの定義と基本概念

エッジAIとは、ネットワークの端(エッジ)に位置するデバイス上で直接AI処理を実行する技術です。従来のクラウドAIでは、センサーやカメラで取得したデータをインターネット経由でクラウドサーバーに送信して処理していましたが、エッジAIではデータを収集したその場で、デバイス自身に搭載されたAIモデルにより判断や分析を行い、結果を返します。

データを送らずその場で判断

「エッジ」という言葉は、ネットワークの中心から最も離れた端末機器を指します。工場の製造ラインに設置されたカメラ、店舗の監視システム、自動運転車のセンサー、医療現場のウェアラブルデバイスなどが該当します。たとえば、工場のカメラが不良品を検知した瞬間に製造ラインを停止したり、自動運転車がセンサーで障害物を認識して即座にブレーキをかけたりする処理が、すべてデバイス内で完結します。

データ処理がデバイス内で完結するため、クラウドとの往復による通信遅延を大きく抑えつつ、用途によってはミリ秒単位の高速な処理も実現できます。機密性の高いデータを外部ネットワークに送信する必要がない点も、セキュリティやプライバシーの面で優位性があります。

エッジコンピューティングとAIの融合

エッジAIは、エッジコンピューティングとAI技術が融合して生まれた概念です。エッジコンピューティングとは、データ処理をクラウドの中央サーバーではなく、データが発生する場所の近くで行う技術のことをいいます。この処理能力にAIの推論機能を組み合わせることで、現場での自律的な判断が可能になりました。近年では、NVIDIA JetsonやGoogle Edge TPUといった小型で高性能なAI専用チップの登場により、エッジデバイスでも高度なディープラーニングモデルを実行できる環境が整ってきています。

エッジAIとクラウドAIの違い

エッジAIとクラウドAIの違いを、以下のポイントごとに解説します。

  • 処理場所・速度の違い
  • コスト・通信量の違い

両者の特性を理解することで、自社の課題解決にどちらの技術が適しているか判断する手助けとなります。

処理場所・速度の違い

エッジAIとクラウドAIの大きな違いは、「AIによる情報処理をどこでおこなうか」という点です。エッジAIは、工場の機械や監視カメラなど、データが発生する現場に近い場所でAI処理を実行します。

一方のクラウドAIは、データをインターネット経由でクラウドサーバーに送り、遠隔で一括処理する点がおもな違いです。

項目エッジAIクラウドAI
処理場所デバイス近く(現場)クラウド(データセンター)
通信の有無不要または最小限必須(インターネット経由)
応答速度速い(リアルタイム対応)ネットワーク状況に依存
適した用途即時判断が必要な処理(例:異常検知や自動運転など)大量データの蓄積と分析(例:需要予測や画像分類など)
導入目的・リアルタイム性・低遅延・現場対応力・高度な計算力・一元管理・大規模分析

たとえば製造ラインでの不良品検出や、自動運転中の危険回避など、一瞬の判断が求められる場面では、通信を介さないエッジAIの低遅延性は大きな利点です。一方で、大量のデータを時間をかけて処理する需要予測やトレンド分析などでは、クラウドAIの処理能力が効果を発揮します。

システムに求められる応答速度や処理規模に応じて、エッジAIとクラウドAIを適切に使い分けることが、AI導入の成功に直結します。

コスト・通信量の違い

エッジAIとクラウドAIは、情報処理の仕組みだけではなく、コスト構造や通信データ量にも大きな違いがあります。それぞれの特徴を把握することで、自社に最適な選択がしやすくなります。

項目エッジAIクラウドAI
通信データ必要な情報のみ送信する(大幅削減可能)生データを継続的に送信する(通信量が多い)
通信コスト運用コストを抑えやすい回線使用量が多く、コスト増に注意が必要
初期投資高性能なエッジデバイスが必要(費用が高め)デバイス要件は低め(導入しやすい)
運用コスト比較的安定している(通信負荷が少ない)クラウド利用料や通信費が継続的に発生する
適したケースリアルタイム性が重要で、通信制限がある現場大量のデータを分析し、初期費用を抑えたい場合

エッジAIを導入する際にはAIチップ搭載デバイスや専用ハードウェアが必要になることもあるため、初期費用が高くなるケースも少なくありません。一方、クラウドAIは導入ハードルが低い反面、継続的な通信費やクラウド利用料が発生します。

クラウドサービスについては、以下の記事で詳しく解説しています。

クラウドサービスとは?種類や身近な例を挙げてわかりやすく解説!利用メリットや注意点も

エッジAIが注目される理由

IoTの普及、ビジネススピードの加速、データプライバシーへの関心といった社会的背景が、エッジAIの需要を高めています。

IoT時代の通信量問題

IoT(Internet of Things)デバイスの普及により、膨大な数のデバイスが常時データを生成しています。スマートファクトリーでは1つの工場で数千から数万のセンサーが稼働し、1日あたり数テラバイトものデータが発生するケースもあります。これらすべてのデータをクラウドに送信すると、ネットワーク帯域が圧迫され、通信の遅延や回線のパンクといった問題が発生します。

しかし、エッジAIを活用すれば、分析結果や重要な情報だけをクラウドに送信すればよいため、通信量を大幅に削減できます。

現場での即時判断の需要の増加

ビジネスのスピードが加速する現代において、数秒の遅延が大きな損失につながる場面が増えています。自動運転車が障害物を検知してから回避行動を取るまでの時間、製造ラインで不良品を発見してから排除するまでの時間といった、瞬時の判断が求められるシーンでは、クラウドとの通信往復時間が致命的になります。クラウドAIではネットワークの状況によっては数百ミリ秒〜数秒かかることがありますが、エッジAIなら数ミリ秒〜十数ミリ秒程度で処理が完了するケースもあり、リアルタイム性を高めやすくなります。

エッジAIであれば、データ収集から判断、アラート発信までを通信遅延の影響なく、デバイス内で素早く処理できます。

個人情報・セキュリティへの関心の高まり

データプライバシーやセキュリティに対する社会的関心が高まるなか、個人情報や機密データの取り扱いがより厳格になっています。EU一般データ保護規則(GDPR)や日本の個人情報保護法など、各国でデータ保護の規制が強化されています。クラウドAIでは、カメラ映像や音声データをそのままクラウドに送信するため、通信経路での傍受やサーバーへの不正アクセスといったリスクがあります。

エッジAIなら、生データはデバイス内で処理され、必要な分析結果だけを送信できるため、プライバシー保護の観点から高く評価されています。

エッジAIのメリット・デメリット

エッジAIのメリット

エッジAIを導入することによって得られるおもなメリットは、以下の3つです。

  • データを瞬時に処理できる
  • 通信コストを削減できる
  • 情報漏洩リスクを減らせる

エッジAIの利点を正しく理解し、活用や課題解決のイメージを膨らませましょう。

リアルタイム性のある判断が可能に

データ収集から判断までをデバイス内で完結できるため、クラウドとの通信に伴う遅延がありません。工場の製造ラインでは、不良品を検出してからロボットアームが取り除くまでの時間が短いほど、生産効率が上がります。クラウドAIでは数秒かかる処理が、エッジAIなら数十ミリ秒で完了するため、年間で数千個の不良品削減につながるケースもあります。この即応性は、瞬時の判断が求められる用途で大きな価値を発揮します。

通信コストを削減できる

エッジAIを導入するメリットは、ネットワーク通信に関わるコストを大幅に削減できる可能性が高い点です。これは、エッジAIがデバイス側でデータ処理をおこなうことで、クラウドへ送信するデータ量を減らせる仕組みにもとづいています。

従来のクラウドAIモデルでは、現場のセンサーやカメラが取得した大量の生データをそのままクラウドに送信し、そこで分析処理をおこなうのが一般的でした。しかし、IoTデバイスの普及などによりデータ量が爆発的に増加するなかで、その通信コストやネットワーク回線への負荷は無視できない課題です。

エッジAIを活用すれば、データが発生した現場でAIがまず情報を処理・分析します。そして、分析結果の数値、異常検知のアラート、特定のイベントが発生した際の短い映像クリップなど、本当に必要な情報だけを抽出、あるいはデータを要約・圧縮してからクラウドに送信するといった運用が可能になります。

情報漏洩リスクを減らせる

エッジAIの重要なメリットとして、セキュリティの強化とプライバシー保護への貢献が挙げられます。データ処理をデバイス内部や組織内の閉じたネットワーク(ローカル環境)で完結させられるため、機密性の高い情報や個人データを外部のネットワーク、とくにインターネット上に送信する必要性を最小限にできるからです。

これにより、情報漏洩につながるさまざまなリスクを効果的に低減することが可能です。クラウドAIを利用する場合、データは必ずインターネットを経由して外部のサーバーへ送られます。この過程では、通信経路上でのデータの盗聴や不正アクセス、あるいはクラウドサービスを提供する事業者側での、不測の事故や管理体制の不備による情報流出といったリスクが潜在的に存在します。

エッジAIでは、データがローカル環境の外に出る機会を大幅に減らせるため、重要な情報を晒すことなくAI処理の恩恵を受けることが可能です。とくに個人を特定できる情報や、企業の競争力に関わるような機密データを扱う場合に極めて重要です。

エッジAIのデメリット

エッジAIを導入するおもなデメリットは、以下のとおりです。

  • 処理能力に限界がある
  • 管理コストがかかる
  • 大規模なシステム構築が難しい

事前にデメリットを理解し、対策を検討しておくことが、導入を成功させるための重要な鍵となります。

処理能力に限界がある

エッジAI導入を検討するうえで、まず認識しておくべきデメリットは、AI処理を実行するエッジデバイスの計算能力には限界があるという点です。

クラウド上の高性能サーバーと比較すると、エッジデバイスで利用できるCPUやGPU、専用AIチップ(NPU)の性能、搭載できるメモリ容量、供給できる電力には制約があります。これは、デバイスが設置される現場の状況に合わせて、小型化や省電力化、コスト抑制といった要求に応える必要があるためです。

結果として、複雑で大規模なAIモデルをそのままエッジデバイスで快適に動作させることは、困難な場合があります。また、高度なAI処理を複数並行して実行しようとすると、処理速度が著しく低下したり、動作が不安定になったりする可能性も考慮しなければなりません。

この課題に対処するためには、まず導入計画の初期段階で、実現したいAI機能とそのために必要な処理性能(速度や精度)を明確に定義し、それに見合うデバイススペックを慎重に選定することが重要です。机上の計算だけでなく、実際の環境に近い状況で検証を実施し、性能を実測・評価するプロセスは不可欠でしょう。

技術的な対策としては、以下が挙げられます。

  • AIモデルそのものを軽量化する技術(量子化、プルーニング、知識蒸留など)を適用する
  • 処理負荷を複数のエッジデバイスに分散させるアーキテクチャを検討する
  • 多機能なひとつの大規模モデルにこだわるのではなく、必要な機能に特化してモデルを単純化・最適化する

最初から過度に複雑な処理を求めず、必要最低限の機能からスモールスタートし、段階的に機能を拡張していくことも検討しましょう。

管理コストがかかる

エッジAIシステムの運用において、多数のデバイスを管理するための手間とコストがかかることもデメリットのひとつです。

一般的に、エッジデバイスは、工場の生産ラインや、広大な施設の各所、全国に散らばる店舗、屋外環境など、物理的に分散した場所に設置されます。そのため、これらのデバイス1台1台に対する導入作業や、ネットワーク設定、稼働状況の監視、障害発生時の対応、といった管理業務が、クラウド中心のシステムに比べて煩雑になりがちです。

クラウドであれば、管理作業の多くをデータセンター側で一元的におこなえますが、エッジの場合は現地での作業が必要となる場面も少なくありません。とくに、デバイスが故障した場合の交換作業や、セキュリティを維持するためのソフトウェア更新を、多数のデバイスに対してタイムリーにおこなうことは、運用チームにとって大きな負担となる可能性があります。

大規模なシステム構築が難しい

エッジAIは、複雑で大規模なシステムを構築する際の難易度が高いという側面も持っています。

クラウド中心のシステムでは、データやAIモデルを中央のサーバーで集中的に管理・処理するため、システム全体の統合や制御が比較的容易です。しかし、エッジAIシステムでは、データや、AIモデル、処理結果が、ネットワークの末端に位置する多数のデバイスに分散して存在することになります。

これらの分散した要素を効果的に連携させ、複数のデバイスからの情報をリアルタイムに統合して全体最適化を図ったり、各デバイスでの学習結果を集約してシステム全体のAIモデルを継続的に賢くしたりするためには、高度な技術的要素が必要です。

エッジAIの活用事例

エッジAIは多様な業界で実用化が進んでおり、それぞれの現場で具体的な成果を上げています。

エッジAIの代表的な活用事例

業界ごとの特性に応じて、エッジAIはさまざまな形で活用されています。

自動運転:障害物検知と瞬時の回避判断

自動運転技術において、エッジAIは中心的な役割を果たしています。車両に搭載されたカメラやレーダー、LiDARセンサーが周囲の状況をリアルタイムで把握し、歩行者や他の車両、道路標識を瞬時に認識します。障害物を検知してから回避行動を取るまでのタイムラグが事故につながる可能性があるため、車内で瞬時に判断できるエッジAIが不可欠です。

また、トンネルや地下など通信が途切れる環境でも、エッジAIなら安定して動作を継続できるため、自動運転の安全性と信頼性を支える基盤技術となっています。

製造業:外観検査による不良品リアルタイム検出

製造現場では、製品の品質管理にエッジAIが活用されています。製造ラインに設置された高解像度カメラが製品を撮影し、エッジAIが表面の傷や色ムラ、部品の欠損といった微細な不良を検出します。従来の人による目視検査では見逃しやすい0.1mm以下の傷についても、条件が整えばエッジAIで高い検出精度を実現できます。1秒間に数十個の製品が流れる高速ラインでも、各製品を瞬時に判定できるため、ライン速度を落とさずに品質管理を実現できます。

製造分野におけるエッジAIの代表的な活用例は、以下のとおりです。

活用シーン活用方法
外観検査カメラで撮影した製品画像をエッジAIがその場で解析し、人目では見逃しがちな微細な傷や汚れ、異物混入などを高精度かつ高速に検出します。
これにより、検査工程の自動化と品質の安定化が図れます。
予兆保全生産設備のセンサー(振動、温度、音など)データをエッジAIが常時監視し、通常とは異なるパターンを検知することで、故障が発生する前にその兆候を捉えます。
突然の設備停止による生産ロスを防ぎ、計画的なメンテナンスを実施できます。
安全管理作業員の動きをカメラでモニタリングし、危険エリアへの立ち入りや不安全な行動を検知して警告を発します。

医療:ウェアラブルデバイスでのバイタル監視

医療分野では、スマートウォッチやフィットネストラッカーといったウェアラブルデバイスにエッジAIが搭載されています。心拍数、血圧、血中酸素濃度、睡眠パターンなどのバイタルデータをリアルタイムで収集し、異常なパターンを検知すると即座にユーザーや医療機関に通知します。たとえば心房細動(不整脈の一種)の早期発見や、睡眠時無呼吸症候群の検出など、病気の予兆を日常生活のなかで継続的に監視できます。生体データをクラウドに送信せずに分析できるため、患者のプライバシーを保護できます。

医療分野におけるエッジAIの活用例は、以下のとおりです。

活用シーン活用方法
AIによる画像診断支援CTやMRI、レントゲンなどの画像をエッジAIが解析し、がんや病変の疑いがある箇所を検出して医師の診断をサポート
患者が身に着けるウェアラブルデバイスへの搭載心電図や心拍数、血中酸素飽和度といったバイタルサインを常時モニタリング
リハビリテーション患者さんの動作分析と効果的なフィードバック提供

小売:店舗カメラでの顧客動線分析

小売業では、店舗に設置されたカメラとエッジAIを組み合わせて、顧客の行動分析を行っています。来店客がどの売り場に立ち寄り、どの商品を手に取ったか、どれくらいの時間滞在したかといった情報をリアルタイムで把握できます。

エッジAIでは個人を特定できる顔画像をクラウドに送信せず、年齢層や性別、動線パターンといった統計情報だけを抽出するため、プライバシーに配慮した分析が可能です。この情報は、商品配置の最適化や在庫管理、マーケティング戦略の改善に活用されます。

農業:土壌センサーによる栽培管理の最適化

農業分野でも、エッジAIの活用が進んでいます。農地に設置したセンサーが土壌の水分量、温度、pH値、栄養素レベルを常時モニタリングし、エッジAIが最適な灌漑のタイミングや肥料の施用量を判断します。通信インフラが整っていない場所でも、エッジAIなら通信に依存せず自律的に動作できます。

さらに、カメラによる作物の生育状況や病害虫の早期検出と組み合わせることで、収穫量の向上や農薬使用量の削減にもつながり、持続可能な農業の実現に貢献しています。

農業分野におけるエッジAIの活用例は、以下のとおりです。

活用シーン活用方法
農地や生育の状況把握ドローンや定点カメラに搭載されたエッジAIが、農地の画像を解析して作物の生育状況を診断したり、雑草や病害虫が発生している箇所を特定したりする
自動水やりシステム畑に設置した土壌センサーや気象センサーのデータをエッジAIが分析し、最適なタイミングで自動的に水やりをおこなう
飼育管理の効率化牛や豚などの行動パターンや鳴き声をエッジAIが監視・分析し、病気の兆候や発情のタイミングなどを早期に検知する

エッジAI導入のポイント

エッジAI導入には技術的・運用的な課題が伴いますが、適切な対策を講じることで克服できます。

導入時の課題と対策

主要な課題とその解決策を理解しておくことが、スムーズな導入につながります。

端末の性能制約への対応

エッジデバイスは、クラウドサーバーと比べて処理能力やメモリ容量が限られています。対策としては、AIモデルの軽量化が有効です。モデルの枝刈り(pruning)や量子化(quantization)といった手法を用いれば、精度をできるだけ維持しながらモデルサイズを削減できます。たとえば、量子化により32ビット浮動小数点を8ビット整数に変換することで、モデルサイズを約4分の1に圧縮できます。

また、リアルタイム性が求められる処理だけをエッジで実行し、より高度な分析はクラウドに任せるハイブリッド構成にすることで、デバイスの負担を軽減できます。

モデル更新の仕組み構築

AIモデルは、運用開始後も継続的な改善が必要です。新しいデータで学習したモデルや、バグ修正を施したモデルを、現場の多数のデバイスに配信する仕組みが求められます。OTA(Over-The-Air)更新と呼ばれる技術を使えば、ネットワーク経由で遠隔地のデバイスに新しいモデルを配信できます。定期的にモデルをアップデートすることで、精度の維持や新機能の追加が可能になります。ただし、安定運用を実現するには、更新時のバージョン管理やロールバック機能を整備しておくことが不可欠です。

運用管理の複雑さへの対処

多数のエッジデバイスを管理することは、想像以上に複雑な作業です。この課題には、マネージドサービスの活用が有効です。デバイス管理プラットフォームを使えば、すべてのエッジデバイスの状態を一元的に監視でき、遠隔からの設定変更やトラブルシューティングが可能になります。

エッジとクラウドの役割分担の設計

推論処理はエッジで、学習処理はクラウドでという役割分担が基本パターンです。

推論はエッジ、学習はクラウドという基本パターン

エッジAIの典型的な構成では、AIモデルによる「推論処理」はエッジデバイスで行い、モデルを構築する「学習処理」はクラウドで行います。推論処理は、学習済みのモデルを使ってデータを分類したり予測したりする処理です。たとえば、製造ラインで「この製品は良品か不良品か」を判定したり、カメラ映像から「この人物は誰か」を識別したりする処理が該当します。比較的軽量な計算で済むため、エッジデバイスでも十分に実行できます。

一方、学習処理は大量のデータを使ってAIモデルを構築・改善する作業であり、膨大な計算リソースを必要とします。数千枚の画像から特徴を学習したり、過去のセンサーデータからパターンを抽出したりする処理は、エッジデバイスでは現実的ではありません。こうした重い処理は、強力な計算能力を持つクラウド環境で実施します。

データの入出力管理とセキュリティ要件

エッジとクラウドを連携させる際は、データの流れを慎重に設計する必要があります。すべてのデータを送信するのではなく、重要な情報や異常検知時のデータだけを選別して送信することで、通信量を抑えられます。たとえば、防犯カメラの場合、通常時は「異常なし」という信号だけを定期的に送り、不審者を検知した時のみ映像データをクラウドに送信する設計が有効です。セキュリティ面では、エッジからクラウドへのデータ送信時にTLS/SSL暗号化を施すことが必須です。また、デバイス自体の認証機能やファームウェアの改ざん検知など、エッジデバイスのセキュリティ対策も重要になります。

AI開発における環境構築については、以下の記事で詳しく解説しています。

AI開発環境の選び方と構築指南:小規模開発から大規模チーム開発まで

AIモデル学習に必要な高性能GPUの活用

エッジAIで使用するAIモデルは、クラウド環境で学習させてからデプロイする必要があります。

学習フェーズでのGPU活用

AIモデルの学習、特にディープラーニングでは、大量の行列演算を並列に処理する必要があります。CPUでもこうした計算は可能ですが、処理に膨大な時間がかかります。

一方、GPU(Graphics Processing Unit)は数千のコアを持ち、並列計算に特化しているため、AI学習を劇的に高速化できます。CPUで数日かかる学習がGPUなら数時間で完了することもあり、この処理速度の違いは、ビジネスのスピード感に直結します。

GPUの基礎知識や選び方、エッジAIのモデル学習に必要な環境の構築方法については、以下の記事で解説しています。

GPUとは?AI開発で押さえておくべき基礎知識と活用戦略
機械学習に最適なGPUとは?選び方・重要性・おすすめメーカーを徹底解説
GPUクラウドとは?研究機関・スタートアップが導入するメリットと選定ガイド

エッジへのモデルデプロイの流れ

学習が完了したAIモデルは、エッジデバイスで動作するように最適化してから配信します。

まず、学習済みモデルを軽量化し、エッジデバイスのメモリに収まるサイズに調整します。次に、そのモデルをエッジデバイスのハードウェアに最適化されたフォーマットに変換し、エッジデバイスに配信して動作テストを行います。エッジAIには、この学習環境に加えて、配信環境の整備が欠かせません。

まとめ

エッジAIは、現場でのリアルタイム判断を可能にする技術として、自動運転、製造業、医療、小売、農業など幅広い分野で実用化が進んでいます。導入においては、エッジとクラウドの適切な役割分担が鍵となります。推論処理はエッジデバイスで実行し、モデルの学習はクラウドで行うハイブリッド構成が一般的です。

エッジAIの実現には、モデル学習のためのクラウドGPU環境が欠かせません。さくらインターネットでは、AI開発に最適な高性能GPU環境を提供しています。高火力シリーズは、NVIDIA H100やB200を搭載し、エッジデバイスにデプロイする前段階の学習・検証作業を高速に実行できます。小規模な学習環境や検証段階では、さくらのVPSがコストを抑えながらPoC(概念実証)に適しています。さらに、さくらのAI Engineでは、エッジAIモデルの検証やPoC支援、技術コンサルティングを提供しており、導入の初期段階をサポートします。ぜひご活用ください。

「高火力」シリーズの導入事例

さくらインターネットの「高火力シリーズ」は、AIモデルの学習・推論や大規模データ解析に対応した高性能GPUクラウドサービスです。研究開発から商用利用まで、幅広いAI活用を支える計算基盤として活用されています。

株式会社ティアフォー様:「高火力PHY」で自動運転開発における実験を大幅に短縮

株式会社ティアフォーは、自動運転AIの開発を支援する「Co-MLOpsプラットフォーム」で、エッジAIのリファレンスモデルを活用しています。このプラットフォームの機能を実現するには高性能なGPUが必要だったため、同社は「高火力 PHY」を導入しました。
その結果、従来は2〜3週間かかっていた実験を、1週間以内で完了できるようになりました。

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さくマガ編集部
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さくらインターネット株式会社

さくマガ編集部

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